9月から始まりました、長野日報 朝刊(毎月第1日曜日)での連載「おらほの病院」、
その2回目が10月2日(日)朝刊に掲載されました。
今回も、産婦人科の鈴木靖子医師によるコラムです。
ご覧になれなかった方は、ぜひ以下よりご一読ください!
(出典:長野日報10月2日(日)掲載分(転載の許可を得ています))
諏訪中央病院リレーコラム
おらほの病院 ~あたたかな医療をめざして~ 第2回
「お産の原風景 ~応援団は必要か否か~」
産婦人科医長 鈴木靖子
産婦人科の先輩から聞いた話です。
アフリカのある村で、家族皆が畑で鍬をふるっています。
ふと、そのなかの一人の女性が動きを止めました。その女性は、大きなお腹に規則的な収縮を感じています。そして畑の端にある納屋のほうへ一人で歩いていき、そこで子どもを産み、自分で取り上げます。後から出た胎盤の始末をして、子どもを抱くとまた家族のもとに戻りました・・・
こんな光景が当たり前の場所がこの世界にはあるんだよ、とその方が教えてくれました。
日本ではこうした光景にはまずお目にかかりませんよね。でもよく考えてみると、確かに自然界では、お産の最中は、ほとんどの動物が何の助けもなしで赤ちゃんを産みます。
多くの動物と違ってヒトは2足で立って歩行しますので、重力に対して内臓を支えるために骨盤が四つ足動物の骨盤よりも閉じた構造になっています。このためヒトでは、ほかの動物と比べて産道が狭くなり難産になりやすく、だからお産を助けてくれる人、介助者がいる方がお産をより安全なものとすることができるのです。
日本では昔からお産婆さんがお産する女性を助け、家族が見守る中、赤ちゃんをとりあげてきました。今ではほとんどの方がクリニックや病院で産むので、助産師と医師の両方が分娩に立ち会いますが、そこに、やっぱり応援団としてご家族がいてほしいのです。
赤ちゃんが産道を通ってくる間、痛む腰をさすってもらうと不思議と痛みが軽くなります。
時々、ご家族がだれも駆けつけられなくて、一人で耐えているお母さんがいます。私たち医療者も背中をさすりますが、準備などのために、ちょっとごめんね、と背中から手が離れる時がどうしてもあります。そのときに一人で陣痛を乗り越えようとするお母さんの悲痛な叫びは私たちの心に突き刺さります。
お産のときの応援団は実のお母さんやご主人のことが一番多いですが、お産が長丁場になりそうなときは、応援団のご家族は代わりばんこで休み,いつも元気な方に背中をさすってもらいたいと思います。新しい家族が一人増えるのですから、お産はやはり、家族で乗り越えるものだと思います。決して、産婦さん一人で苦しむものではないのです。
次回は11月6日掲載予定です。