長野日報 朝刊(毎月第1日曜日)での連載 諏訪中央病院リレーコラム『おらほの病院』、
4回目となるコラムが12月4日(日)の朝刊に掲載されました。
引き続き、産婦人科の鈴木靖子医師によるコラムです。
ご覧になれなかった方は、ぜひ以下よりご一読ください!
(出典:長野日報12月4日(日)掲載分(転載の許可を得ています))
諏訪中央病院リレーコラム
おらほの病院 ~あたたかな医療をめざして~ 第4回
「赤ちゃんにやさしい病院」
産婦人科医長 鈴木靖子
諏訪中央病院は、WHO(世界保健機構)から「赤ちゃんにやさしい病院」と認定されています。さて、これって何の認定でしょうか?
「赤ちゃんにやさしい病院」というのは、『母乳育児成功のための10か条』を実践する産科施設のことで、この10か条を実践するのは、お産をしたお母さんではなく、お母さんを支える医療者であり、母乳で育てたいと思うお母さんを支える環境を整えるために、助産師や看護師、医師たちが努力すべきことが掲げられています。世界では、安全な水や粉ミルクが手に入りにくいため、ミルクで育てられた赤ちゃんが低栄養や細菌感染などで死んでしまう地域があります。そのような地域では、おっぱいで育てられることが赤ちゃんが生き残るうえでとても重要になります。
日本では,高品質の粉ミルクと安全な水道水がありますから、母乳をあげるお母さんがつらい思いをするようなら、母乳育児にこだわらなくても良いと思います。母乳育児の理想は、ママも赤ちゃんも楽で気持ちがいい状態です。
赤ちゃんは、おなかがすいたそぶりをしたらすぐに抱っこしてもらえて、ぱくっとおっぱいを吸わせてもらえておなかいっぱいになる、ママも張ってきたおっぱいを吸ってもらえて楽になる、おっぱいをあげているとママの脳からも快楽を感じるホルモンが出て、母子ともに満たされます。おっぱいを吸っている子供の顔を見降ろしていると、子供が半分目を閉じてとても安定した精神状態になるのが、母親に伝わります。抱き寄せた子どものおでこのにおいをかいだり、キスをするのもまた愛情と絆が深まります。げっぷをさせる必要もなく、夜はおっぱいで窒息させないようにさえ気をつければ、添い寝をしながらおっぱいをあげて、あげながら眠ってしまえば、楽なこと、このうえないのです。
ミルクだと、哺乳瓶の中の空気も一緒にのんでしまうので、こうはいきません。ミルクを作るために起き、ミルクをあげた後も赤ちゃんがげっぷをするまで、10分でも20分でも赤ちゃんを縦にした姿勢で背中をトントンしなければなりません。もし中途半端なげっぷで寝かせようものなら、飲んだミルクを全てもどしてしまい、白湯とミルクは作り直し、汚れたベビー服と下着を着替えさせるという作業までプラスされ、ママもパパも睡眠不足になってしまいます。
私自身の子育て経験では、1人目の長男のときは産後3か月でほとんど母乳が出なくなり、そこからは粉ミルクだけで育てました。当時研修医だったので、指導医に小言をいわれる度におっぱいが出にくくなったのが印象に残っています。2人目は仕事に余裕が出てきて母乳とミルクの混合で、3人目はほぼ完全母乳でした。おっぱいだけでやるには、母親にそれなりの時間と心のゆとりが必要だと身をもって知りました。
日本における分娩施設は、病院と診療所併せて約2300施設ありますが、そのうち、WHO・ユニセフが認定する「赤ちゃんにやさしい病院」は日本国内では諏訪中央病院を含めて、たった73施設しかありません。レストランでいえば、ミシェランガイドに載ったみたいなものなので、市内や近隣地区の皆さんに、近くに良い病院があることをもっと知ってもらえたらと思います。
母乳育児成功のための10か条
(WHO・Unicef共同声明 [1989年])
産科医療や新生児ケアにかかわるすべての施設は以下の条項を守らなければなりません。
①母乳育児についての基本方針を文書にし、関係するすべての保健医療スタッフに周知徹底しましょう。
②この方針を実践するのに必要な技能を、すべての関係する保健医療スタッフに訓練しましょう。
③妊娠した女性すべてに母乳育児の利点とその方法に関する情報を提供しましょう。
④産後30分以内に母乳育児が開始できるよう、母親を援助しましょう。
⑤母親に母乳育児のやり方を教え、母親と赤ちゃんが離れることが避けられない場合でも母乳分泌を維持できるような方法を教えましょう。
⑥医学的に必要でない限り、新生児には母乳以外の栄養や水分を与えないようにしましょう。
⑦母親と赤ちゃんが一緒にいられるように、終日、母子同室を実施しましょう。
⑧赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけの授乳を勧めましょう。
⑨母乳で育てられている赤ちゃんに、人工乳首やおしゃぶりを与えないようにしましょう。
⑩母乳育児を支援するグループづくりを後援し、産科施設の退院時に母親に紹介しましょう。
次回は平成29年1月8日掲載予定です。
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