2016.11.10
9月から始まりました、長野日報 朝刊(毎月第1日曜日)での連載「おらほの病院」、
3回目となるコラムが11月6日(日)の朝刊に掲載されました。
引き続き、産婦人科の鈴木靖子医師によるコラムです。
ご覧になれなかった方は、ぜひ以下よりご一読ください!
(出典:長野日報11月6日(日)掲載分(転載の許可を得ています))
諏訪中央病院リレーコラム
おらほの病院 ~あたたかな医療をめざして~ 第3回
「銭湯でオトコに間違えられた」
産婦人科医長 鈴木靖子
前回のコラムで、ヒトは2本足で歩くため、おなかの内臓が落ちないように骨盤が狭めになっており、その分イヌなどの4つ足動物と比べて難産である話を致しました。今回は、その狭い産道を通して子供を産んだ女性ならば、誰にでも起こりえるエピソードについて話したいと思います。
平均3kgの赤ちゃんが産まれたあとの産道は、産後2か月もするとほぼ元に戻りますが、加齢とともに骨盤を支える筋肉が細く弱くなると、子宮やその前後にある膀胱や直腸などの下腹の内臓が全体に下がり、腟を押し下げるようにして腟の入り口から外まで出てきてしまうことがあるのです。その状態を、どの内臓が出てきているのかによって、「子宮脱(しきゅうだつ)」、「膀胱瘤(ぼうこうりゅう)」、「直腸瘤(ちょくちょうりゅう)」と呼びます。股に内臓がはさまってくる違和感の他に、尿漏れに悩んだり、逆にいきんでも尿が出にくい、便が出にくいなどの症状がおきてきます。好発年齢は60~80歳で、「なにかピンポン玉のようなものが挟まる」「固いものが触れる」といって産婦人科外来を受診します。
今までで忘れられない言葉は、「銭湯でオトコに間違えられた」でした。
完全子宮脱という最重症の患者さんで、子宮は全体が外にでて、お股にぶらさがっている状態でした。尿が出しにくいのはさておき、女湯で周りの女性が騒ぐので好きな銭湯に行けなくなったといって憤慨しておられました。私もそれをお聞きして産婦人科医として、子宮を男性生殖器と勘違いするとは何事だ、と言いたい気持ちになりましたが、にぎりこぶし大のものがお股にぶらさがっていれば、男性と見間違ってもしょうがないのかなとも思いました。
子宮脱の悩みを抱えて外来を訪れる女性は、とくに夏の草取りのあとや年末の大掃除のあとに多い印象があります。長い時間しゃがんだ姿勢をとる作業や重いものを持ち上げるなどの作業は、腟が緩んだ状態で腹圧がかかるため、今まで大丈夫だった方にも子宮脱を誘発することがあります。予防としては、草取りはしゃがむ姿勢を避けて膝をついて作業をすること、重いものを持つ際にはまず肛門をキュッとしめてからお腹に力をいれることなどを習慣とすることが有効です。
子宮脱の治療としては、骨盤底の筋力を高める体操や、子宮が下がらないように押さえるペッサリーという弾力のあるリングを腟に挿入する治療や、子宮をとって腟を縫い縮める手術,子宮をとらずに元の位置にもどして腟を閉鎖する手術、メッシュ状のシートを骨盤底に敷いて内臓を支え上げる手術などがあります。
産婦人科はなかなか、かかりにくい科のようで、何年もひとりで悩んだあげくにやっといらっしゃる方もおられます。ほとんどの方が決まり文句のように、「来にくかったけど、来てよかった」とおっしゃって帰るので、もっと気軽に受診してもらえればいいのになと思い、書かせていただきました。
~こんなときは産婦人科に相談~
・尿が漏れやすい
・尿ががまんしにくいときが1日に1回以上ある
・便をしたくていきんでも、膣の方向に便が押されてしまい出てこない
・子宮が下がった感じがする
・何かピンポン玉のようなものが股にはさまる感じがする
次回は12月4日掲載予定です。