2017.04.10
長野日報 朝刊(毎月第1日曜日)での連載 諏訪中央病院リレーコラム『おらほの病院』、
8回目となるコラムが4月2日(日)の朝刊に掲載されました。
引き続き、産婦人科の鈴木靖子医師によるコラムです。
ご覧になれなかった方は、ぜひ以下よりご一読ください!
(出典:長野日報4月2日(日)掲載分(転載の許可を得ています))
諏訪中央病院リレーコラム
おらほの病院 ~あたたかな医療をめざして~ 第8回
「女の産み時を考える」
産婦人科医長 鈴木靖子
今回のコラムは、一番皆さんにお伝えしたかった内容です。私は産婦人科医ですので、妊娠と分娩に直面する日々を送っています。現場から観ますと、それぞれの立場の人々の思惑が、その世代の人口の流れを作っていることがよく分かります。
その思惑は大きく分けて2つの立場の人の集団から発せられます。1つは社会の枠組みや政策・規則を決める主におじさんの集団と、もう1つは実際に産む女子たちの集団です。
国の人口は、その年に亡くなる人と新しく生まれる人の数で増減が決まり、流れが生み出されます。亡くなるほうは寿命で決まり、生まれる人の数の方は産む女性の意志で決められているのです。
今の世代の女性は「30歳くらいに結婚して、遅くても35歳までには1人目を産めたらいいか」と考えている人が多いようです。
これには、平成3年に日本産科婦人科学会が、高齢初産、すなわち『マル高』の定義を、それまでの『30歳』から『35歳』に引き上げたことが背景としてあり、そしてこのことが高齢妊娠に拍車をかけたように思います。
それまでの世代の女性には、25歳までに1人目を産んで、30歳までに2,3人産み終えるといった共通認識があり、それは『マル高』と呼ばれたくないという想いが根底にあったのです。ところがそれを35歳にしてしまったものだから、女性は安心してしまいました。20代は同世代の男子と同じように仕事と遊びに捧げることにして、結婚や出産は優先順位が下がりました。
世の中のおじさんたちは、やっぱり女子の考え方が分かってないなと思うのです。右をみて左をみて、みんなと同じようにやるのが普通の女子です。
今が産み時の世代の流れとしては、初婚年齢が平均29歳、初産年齢が平均30歳となっています。30歳を過ぎると少しずつ妊娠しにくくなり、36歳を超えると妊娠率は急に低下するので、結婚してもなかなか子供ができない夫婦も多くなります。今、高齢初産を35歳からさらに40歳に引き上げようかという動きも学会では出ているようですが、それは高齢化を悪化させるだけだと思います。
日本産科婦人科学会の委員や法律家は、多様化する高度な不妊治療で生み出される受精卵や出生児の権利等に関して見解を出したり規制を定めたり、行政も何歳までの女性に不妊治療を助成するかを決めたりと今の世代の生殖の方向は非常に複雑化しています。おもに50~70代のおじさんたちは、自分で自分の首をしめて忙しくなっているのです。
なぜ30歳を35歳に引き上げたか、その理由は明記されていないのですが、30歳と35歳を比べるとお産の時間が長くなったり、鉗子や吸引分娩になったり、下から産めずに帝王切開になったりすることは増えても、赤ちゃんやお母さんが死んでしまう数はあまり変わらないから、命は救えているからいいじゃないかということなのかと思います。でも、実際にお産の大変さが増えるのは確かなので、そこのところをこれから妊娠・出産しようという女性たちにきちんと伝えるべきではないかと思うのです。
実は最初のお産である初産は、身体的には10代後半から21歳くらいまでが最も安産で、裂傷もなくツルッと産む人が多いです。25歳を過ぎると身体の柔軟性が落ちていくので、たいていの初産婦は裂傷ができ、そこから先は年々お産が重くなっていき、30歳を過ぎると6人に1人は帝王切開になります。
社会的にはやはり成人してから出産するのが望ましいですので、日本産科婦人科学会は高齢初産の定義を25歳に引き下げるのが良いのではないかと思います。これが女子にとっては一番効果的で、25歳まで、遅くても30歳までに1人産むぞとなり、かつ学会が声明を発表するだけで済みますので、一番安い少子化対策なのです。
鈴木靖子医師のお話は今回をもって終了です。次回以降しばらくは、諏訪中央病院歴代院長らが入り乱れて語ります。まずは、前々院長である鎌田實医師の登場です。
次回は平成29年5月7日掲載予定です。
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